御曹司と婚前同居、はじめます
感じる視線は、隣の私への好奇のものだろう。

二人が会話をやめて周囲に顔を巡らすと、待っていましたといわんばかりに人々がわらわらと押し寄せてきた。


「お久しぶりです。そちらの方は?」

「娘です」

「婚約者です」


こんなやり取りが何回も繰り返され、私はボロが出ぬよう極力言葉を発さずに微笑むことに徹した。

言葉遣いや立ち居振る舞いなど一応問題なくやれる自信はあったけれど、堂園化成について色々聞かれてしまうと何も答えられなくなってしまうので、その点で言えばお父さんがいてくれて助かった。

一通りの挨拶を終え、お父さんとも一旦別れて瑛真と二人きりになった。


「予想以上に疲れた……」

「まだ始まったばかりだぞ」

「もう帰りたい」

「そう言わずに。美和の好きなケーキもワインもあるから」

「こんなところで飲んだら悪酔いしそう」

「そうなったら泊まっていけばいいよ」


さっきまでの凛とした姿からは想像もつかないくらい、甘い声を耳元で囁いてくる。


「明日も仕事なんだからそういうわけにはいかないでしょ」

「柏原にここに迎えに来てもらえばいいだろう? それとも、朝早くに起きれないくらい夜更かしでもするつもりか?」

「なっ……!」


開いた口をわなわなと震わす私を見て、瑛真は満足そうに微笑んだ。

お酒を飲んでもいないのに身体中が熱い。
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