御曹司と婚前同居、はじめます
「残念です。こんなにお綺麗な方なら、ご婚約される前にお会いしたかった」

「えっ？」

「あはは。酔っ払いの戯言として聞き流してください」

「はあ」

「瀬織さんのおっしゃる通りですね。これまで身を潜めていて正解だったと思います。そうでなければ、私のような輩に絡まれて大変だったはずです」


あの会話も聞かれていたんだ……。


「森実さんは少し変わったお方ですね」

「よく言われます」


へらっとした笑顔を向けられて、すっかり気抜けしてしまう。


「私のような成金とは違って堂園化成さんは歴史のある会社でしょう。やはり瀬織さんのような方が相応しいのでしょうね」

「そんなことありません」


即座に否定した。


「私は会社経営には関わっていません。ですから、森実さんのようにご自身の力で若くから成功されている方たちのことは尊敬しています」

「嬉しいことを言ってくださいますね。ということは、私にもまだチャンスはあるのでしょうか？」

「えっ……」


そういうつもりで言ったわけじゃないんだけどな。

掴みどころの無い森実さんの扱いに困っていると、


「美和」


どこか不機嫌そうな顔をした瑛真が歩み寄ってきた。後方にはまだ名残惜しそうに彼の背中を見つめている女性たちがいる。


「戻っているのにどうして声を掛けない？」

「あんなに女性に囲まれていたら話し掛けづらいですよねえ」


陽気に言う森実さんを一瞥して、瑛真は私の腰を引いた。
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