御曹司と婚前同居、はじめます
「森実さん、彼女のお相手をしていただきありがとうございました」


どうやら二人は顔見知りのようだ。


「こちらこそ楽しい時間をありがとうございました」

「今日はお一人なんですね?」

「妻も娘も季節外れの風邪を引いて、揃ってダウンしています」


え!? どういうこと!?


「それは心配ですね。これからの季節、我々も気を付けなければいけないですね」

「本当ですね。それでは、美和さんもお体ご自愛下さい」


爽やかに去っていく彼の後ろ姿に、一体何だったのかと呆気に取られる。

本当にただの酔っ払いが絡んできただけなの? 勘弁してよ……。


「随分親し気だったな。楽しかったのか?」

「へ? 別に?」


まあ、おかげで嫌なことを考えずにすんだけれど。


「飲んでいるのか」


手元のワイングラスに視線を落とした。


「あ、ごめんなさい」

「別に謝らなくていい。俺も少し飲もう」


瑛真は私と同じものをウエイターから受け取って、ごくごくと勢いよくグラスの中身を飲み干してしまった。


「そんな飲み方して大丈夫?」

「これくらいじゃ酔わない」


そう言って、また新しいグラスを手にする。
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