御曹司と婚前同居、はじめます
「経営難だったとはいえ堂園化成はやはり一目置かれている。おじさんと美和と一緒に回って再認識したよ。だから、あんな私情を挟んでくる人間の言葉に耳を貸さなくてもいい。現に、今日挨拶をした人たちの反応はどれも良かっただろう?」


瑛真の言う通りだった。

堂園化成の社長であるお父さんが一緒にいたことを差し引いても、周りの反応は良好だった。


「そうね。――でも、改めて私って名ばかりのお嬢様なんだなって思っちゃった」


アルコールが饒舌にさせる。


「今日パーティーに来ていた人たちとは生きている世界が違う」


まやかさんの姿が瞼に浮かぶ。

ああいう人こそが瑛真の隣に並ぶのに相応しいんじゃないかな。


「その手の話になると途端に自信を無くすんだな」


たぶん、子供の頃のトラウマがそうさせている。

薄暗い記憶が蘇り、胸の辺りが窮屈になった。

私はただ幸せになりたいだけなんだ。地位も名誉もいらないし、平穏に暮らせるだけのお金があればいい。

そう思って生きてきたのに、瑛真と一緒になるということは、そんな甘い考えでは通用しないのかもしれない。

私、本当に瑛真を好きになっていいのかな……。

目の前と頭の中がぐらぐらと揺れる。


「美和? 大丈夫か?」

「うん」

「だいぶ酔っているな」


優しい手つきで頭を撫でられて、口から小さな吐息が洩れた。
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