御曹司と婚前同居、はじめます
「寝落ちする前に移動しよう」


手を引かれてパウダールームへと誘導され、二人仲良く並んで歯を磨く。

こうしていると本物の恋人みたい。……この家にまやかさんも来たのかな。

元カノの存在に必要以上に触れてしまったせいで、いつもなら考えないことを考えてしまう。

これまで付き合ってきた人の過去を気にしたことなんて一度もなかった。

経験したことのない心の揺れ動きに自分自身が動揺している。

寝室へ移動してベッドの端に座らされる。瑛真は足元に跪いた。


「今日はどうしたらいい?」


上目遣いで聞かれる。


「どうしたらって?」


本当に言っている意味が分からなかった。


「俺は一緒に過ごしたい」


それは、一緒にこのベッドで寝るってこと?

胸がきゅうっと締め付けられて呼吸が上手くできない。

膝の上に置いてあった両手を、大きくて温かな手が包み込んだ。


「無理強いはしない」


ついさっきまで迷いがあったのに、瑛真に真っ直ぐ気持ちをぶつけられて、簡単にほだされてしまった。


「無理じゃ、ない」


瑛真は安堵した表情を見せる。
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