御曹司と婚前同居、はじめます
 ◇


瀬織建設に出社するようになって三週間目に差し掛かった。

このまま流れに任せて過ごすだけではもったいないと思い、瑛真と柏原さんにお願いして勉強をさせてもらうことにした。

瑛真はもちろんのこと、柏原さんも一級建築士の資格を保有しているそうだ。

デスクに詰まれた書類と睨めっこしている瑛真に代わって、今日は柏原さんに丁寧に教えてもらっている。そんななか、彼のスペックの高さに改めて驚かされる。


「ここの秘書の方はみんな資格を持っているんですか?」

「そんなことはありません。それに、一般的に建築士の資格は、建築設計事務所に就職する際にはあまり必要とされないんですよ」

「そうなんですか? それならどうして?」

「当初、私は独立したいと考えていました。ここで働きながら学ばせてもらおうと思っていたわけです。ですが副社長の下で働かせていただいているうちに、私は設計士には向いていないと感じて、こうして秘書として働かせてもらっているのです」

「どうして向いていないと思ったんですか?」

「どうも図面を引いていると眠たくなってくるんです」

「冗談ですよね?」

「本当ですよ」


どこまで信じていいのか分からないけれど、柏原さんにも色々と事情があるのだろう。
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