御曹司と婚前同居、はじめます
『分かったよ。ただ本当に、困ったり辛くなったら俺を頼って』

「ありがとうございます。お気持ちだけで十分です」


私の反抗的な態度にさすがに呆れたのだろう。乾いた笑い声と共に通話は切れた。


「口が上手い人だわ」


それでも、何の言葉もくれない瑛真と比べたら、嘘でも気遣いの言葉をくれた創一郎さんに好感が持てた。

罠に嵌められているかもしれないのに、どうしても彼の好意の全てが嘘だと思えないのは、私が甘ったれているからなのかな。

ますます頭がこんがらがって、キャベツを千切りにしていた時に指先を切ってしまった。

夕食の支度を終え、シャワーを済ませ、絆創膏を新しいものに張り替えても、瑛真は帰ってこなかった。

時刻は二十三時を回っている。

一緒に暮らし始めてからこんなにも遅くなることは一度もなかった。包帯を巻き直さないといけないので、仕事が残っていても、家に持ち帰っていたからだ。

不安な気持ちが膨れ上がっていく。

結局瑛真が帰ってきたのは深夜二時を過ぎた頃だった。

リビングのソファで体育座りをしている私を見て、瑛真は目を丸くした。


「まだ起きていたのか」


それはないんじゃない? ここまで遅くなるのなら連絡を入れるべきよ。
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