御曹司と婚前同居、はじめます
間近に迫った美しい顔。

ちょ、ちょっと待って……!

ふわりと石鹸の香りが鼻を掠め、口角のすぐそばに瑛真の柔らかな唇が触れた。

静寂の中に自分の心臓の音だけが鳴り響く。

――唇にされるかと思った。

強引なくせに、なんて優しいキスをするのだろう。

初めてきちんと瑛真の心の内が覗けたような気がして、胸がきゅうっと締め付けられる。

そっと離れた唇は、


「やっと美和を手に入れることができるんだ。逃がすものか」


また甘くて強引な台詞を落とした。

避けようと思えば避けることができたのに、キスを受け入れてしまったことへの動揺と羞恥で身体中が熱くなる。


「な、にして……」


声すらも上手く出せない。

瑛真が離れたことで開けた視界に柏原さんの姿が入った。

気を遣ってくれているのか、柏原さんはわざとらしく顔を背けて何もない壁を見つめている。

その行動が余計に羞恥心を煽る。

気まずすぎるよ……。
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