御曹司と婚前同居、はじめます
そんなことにも気がまわらなくて申し訳ないことをした。

反省の面持ちで瑛真を見れば、顰められた顔とぶつかる。


「何をしている」


温度のない声音に心臓がビクッ、とした。

お、怒ってる……?

足早に歩いてきた瑛真は、私を自身の胸に抱き寄せた。


「え!?」


広くて厚い胸板に包み込まれて鼓動が駆け足になる。


「カードキーを渡して、携帯の番号を伝えていただけです」


聞こえた笑いを含んだ声に、驚いて柏原さんを見ようとしたけれど、瑛真が許してはくれなかった。

鼻も口も押し付けられて息がしづらい。


「く、くる、しい……」


それに、スーツが汚れちゃう。


「ああ、悪かった」


腕の力が弱まって、胸板と僅かに距離ができる。その隙間で小さく息をつくと、気遣うように頭を数回撫でられた。

胸の高鳴りが大きくなる。

この扱いは甘すぎるよ……!


「美和様。ご覧の通り副社長はかなり嫉妬深い。なるべく私と二人きりになったり、親密に話をしたりすることは避けた方が賢明かと思います」

「親密になる必要性がどこにもない」


瑛真は柏原さんの言葉に被せるようにして、まだ不機嫌そうな声で言った。


「そうですね」


柏原さんはまた笑いを堪えている。

この二人、どうやら仲が良いみたいだ。
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