さまよう爪
直人は告白してからずっと素っ裸でベッドに正座している。

何というかマヌケな絵面だ。

『いいかげん服着なよ。風邪引くよ』

彼は服を着ると『ごめん』と呟いた。

そしてわたしを見た。

なに?

唇を動かして、だけど声に出さない。イジワルだ。

『……バイバイ直人』

『バイバイ』わたしが二度目は一度目よりはっきりとした発音で言って、ようやく直人は理解したのか、

『ごめん……』

ともう一度、彼の声が聞こえた。

謝るぐらいならするな。

するぐらいなら別れるな。

『……いってらっしゃい』

置いていかないで、とか。

嫌だ、とか。

わたしは言わず、言えずにありふれた挨拶を口にした。

彼は笑う。困ったように、嬉しそうに、悲しそうに。説明できない感情のこもった、綺麗な笑顔。

『ありがとう、いってきます』
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