さまよう爪
エレベーターを降りて深呼吸をする。

鼻に抜ける油の香り。

ビルを出るとすぐ横にあるトンカツ屋の看板が目についた。

昼食という時間帯。

行きには看板に気がつかなかった。

わたしはお腹が空いているのだろうか。

新しい髪型で気分が高揚しているからかよくわからない。

美味しそうな店だけれど、美容院に行った後に入る気持ちにはなれないかな。

ビルを背にして歩き出す。

自分がどこに向かおうとしているのかわからないまま歩き出す。

このままここに突っ立ていては意味がないのだから仕方がない。

思えば朝に食べたヤマザキのバターロールしか口にしていない。

外から見るどの店もランチタイムは過ぎたというのに家族連れやカップルたちが楽しそうに食事をしている。

中には1人で食べている女性も居る。普通のことだ。

しばらく歩きながら考えた結果。

お腹いっぱい食べると体が重いし、てきぱき動けないから、このまま何も食べないのもアリだろうと思える。
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