さまよう爪
「全然全然そんなんじゃないから」

「まったまたぁ」

小野田さんてば、焦ってる焦ってる。

愛流はふふっと笑うけれど、ほんと、そんなんじゃない。瀬古さんとは、そんなんじゃない。

「今度埋め合わせするからごめんね」

「いいですよ。こういうのって最初が肝心ですからね。いい結果報告待ってます」

参った。誤解はなかなかとけそうにない。

自分の指を見る。マニキュアで塗られた爪は薄い桜色。目の前の愛流の着ているカーディガンも薄い桃色だ。

いいですよねぇ小野田さんは。

横から声がする。

「え、なに」

「爪の形綺麗でいいなぁって。ご飯と一緒に写ってもかわいいし、インスタ映えしますもん」

「わたしそういうのよくわからないや」

でも、自分は投稿しないだけで、やってる。好きな芸能人をフォローしている。気になるモノや洋服、観光場所とかタグで検索して色々出てきて調べれるのがいい。友人のは面倒くさいからノータッチ。最近はNASAがすごく写真が綺麗でお気に入りだ。あとハリネズミ動画。

「あたしの爪ってシジミみたいでしょう」

両腕を前に突き出して見せてきた愛流の爪は確かに子供のように小さかった。

別にわたしはこの自分の爪を自慢したいわけでも、みんなに見てもらいたいわけでもない。

たったひとり。

あの彼に見てもらいたいだけだ。
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