さまよう爪
「……そうですね」

以前路地裏のインドカレー屋に1人で入ったら、店員に『結婚してる?結婚してる?』と何度も訊かれ、独身だが怖くなり『してるしてる!』と答えた思い出。

そして彼らは目ヂカラもすごい。

この前信号待ちをしていたら、横断歩道の先の店からガン見しててぎょっとした。

厨房からナンを叩く音。

パシンッパシンッが聞こえる。

調理担当の人と目が合う。

ニカッと真っ白な歯を見せ、ウィンクされ反応に困る。

薄暗い店内だと尚更白目と歯が目立つ。

「ここって前はラーメン屋、その前もラーメン屋、その前は焼肉屋だったんだけど、1年以上もったお店はないんだよね。そんなに立地が悪いってわけじゃないんだけど、何か、ここで店やると失敗するっていうジンクスのようなお約束みたいなもんが地域民の文化になってるのよ、この場所」

そういえばわたしの記憶でもこの辺の入れ替わりは激しい。

「最近インド料理のお店増えましたよね」

実はインド料理店なのにネパールやパキスタン、バングラデシュの人がやっているパターンが多かったりする。

この店の壁にはシヴァのポスターも貼ってあるから彼らはインド人なんだろうか。
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