さまよう爪
「あまり辛くないオススメってなんですか?」

「……アー
カライ
チョト カライ
イッパイ カライネ
ナンデモオイシイ
ミナオイシイ
ダイジョウブ、ダイジョウブ
ナンデモ、オイシイ」

平然とした態度の瀬古さん。

「それはいいね。じゃあちょっと辛いで。ディナーセットってドリンクも付きますか?」

「ハイ
ツキマス。デモ、××××××××××××××」

肝心なところで母国語が出て聞き取れない。

「うんうん。それでお願いします」

彼は絶対何を言っているかわかってないだろうが頷きながらスムーズ注文をしていく。

呆気にとられている間に注文が終わってしまった。

「ソノ チラシアルト サービススルヨ」

「だって、ラッキーだったね小野田さん」

瀬古さんは目の前で折り畳みの焦げ茶のメニューをぱたんと閉じて、にっこり笑う。

「……う、うん」

2人分の注文を受けても店員は、うんともすんとも笑いもしない。すうっと厨房へ消えていく後ろ姿を眺めながら、何なんだろうと思う。

けれど瀬古さんはとくだん気にした様子もない。

「セットメニューなら色々食べるから一つくらい当たりあるでしょ」
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