さまよう爪
「この間。久しぶりだったよね、うちに来てくれたの」

そうだ。

瀬古さんはわたしの行きつけのドラッグストアに薬剤師として働いていた。

今まで気づいてなかったから白衣姿には違和感しかなかったが、こんな彼でも真面目に仕事をしているのだろう。

「ちょっと事情がありまして」

「事情?」

「……元カレがあの近辺に住んでまして。や、何となくです。本当に」

テーブル下で足を組む。

それでドラッグストアには自ずと足が遠退いていた。

「なかなか来てくれないからまた具合でも悪くなったんじゃないかって思ってたんだよ」

よく、見られていたんだな。

「……まあ1回行っちゃえばどうってないのでまた行きます。あそこは品揃えいいですし、安いし。はい」

「小野田さんは強いねぇ。危ういけどそういうコケないところとか好きだな。きみはへたれてるより背筋伸ばしてシャンとしているほうがいいよ」
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