さまよう爪
好き。

嫌みではないかと素直に受け取れないわたしはひねくれ者だ。

「生活かかってるし必死なだけです」

ふっ切れたわけでも、新しい恋をしようとなんて思ってない。

うつ向く。テーブルに置いた自分の手。軽く握る。手の先には綺麗な桜色のマニキュア。

ずっと止まってるいる、わたしは。

「このままずっと1人でもいいかなって」

「寂しいなぁ。まっ俺が言えた義理じゃないけどさ」

「……元カノさんのこと、今でも好きなんですか」

「うん愛してるよ」

キッパリ答えられてしまった。

しかも愛してるだ。

愛という言葉には、「好き」よりももっと深い懐をもった感情。

何とも言えない気持ちになって唾を飲みこむ。

胸がざわつく。

「今でも連絡とったりして」

「無理でしょう」

「ですよね無理ですよね!」

人妻ですもんね。

顔をあげれば瀬古さんが目の前で頬杖をつき、じっとこちらを見つめていた。
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