さまよう爪
「大学の頃にお付き合いを?」

いや。と瀬古さんは首を左右に振る。

「彼女は三年の時大学をやめたんだ。中退して専門学校に入って美容師を目指すってね。美人だけじゃなくて、学もセンスあった彼女には金銭面をサポートしてくれる大人も複数人いたみたいだし」

美貌も要領もないから男を振り回すことなんて無理だが、ちょっとだけ。ほんのちょっと、そういう女性に同じ女として憧れる。

男を引きつける美貌や色気が重要だが、なくても何故か男性が惹かれる不思議な顔立ちなことが条件。

こっちはその気はないのに男がぞっこんになってしまう、店や土地まで貢がせてしまう才覚、男の人生を狂わせるまでの魅力、一度抱いたら虜にする身体。

男を破滅させるレベルは引くので、振り回す小悪魔くらいになりたい。人生楽しそうだ。

ドラマでは悪女と言ったらイコール、イケてる美女だけど、 現実の世界では結構地味な、 けしてお世辞にも美人とも言えないような人がそうだったりするが。

悪女、魔性の女は、振られて喪失感で苦しむこととか感じたことないんだろうな。

「再会は本当に偶然。その頃には俺はようやく国家試験に合格して薬剤師に、マコは美容師になってた。付き合うのはそれからで」
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