独り占めしても、いいですか?
「日和」



秀ちゃんに呼ばれて振り向く。



「大丈夫、1人じゃないから」



そう言ってトントンッと自分の胸を2回叩いた。



いつもみんなが歌う前にやる合図。



その動作を見てハッとする。



そうだよ、今私は1人じゃない。



秀ちゃんがいる。



一緒に演奏してくれる仲間がいる。



大丈夫、大丈夫。



自分を落ち着けるように、私も2回胸を叩いた。



もう一度深呼吸をして前を向くと、さっきのような吐き気は無くなっている。



決してこのステージの上にいることが気持ちいいわけじゃない。



けど、怖がるほどでもない。



ヴァイオリンを構え直した。



よし。


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