その男、極上につき、厳重警戒せよ


「君が受付に移動したと聞いて、私は嬉しかったよ。攻と桐子さんの子がここにいるんだと思うと、それだけで幸せな気分になったものだ。しかし、それと時期を同じくして会社のサーバーに不正アクセスが相次ぐようになり、最近では私のもとに、脅迫文まで届くようになった。それで、深山くんに相談したんだ」


話を振られて、深山さんは人のよさそうな笑みを見せた。


「遠田社長からの頼みじゃ断れませんからね。まして、俺の命の恩人の娘にかかわることだというし」

「命の恩人?」


突然のワードに彼のほうを見ると、彼は左眉を指さして言った。


「ここに傷が残っているだろう。これは昔、テロに巻き込まれたときについた傷なんだ。俺の父親は現地の日本領事館で仕事をしていて、攻さんとは顔見知りだった。色々と相談にも乗っていたようだったんだ。当時俺も母も現地に住んでいて、日本人はほぼ領事館の関係者ばかりだったから、毛色の違う彼が物珍しくてさ。彼の後についていこうとしたとき、近くでテロが起こった。銃声が鳴り響き、建物のガラスは一瞬ではじけ飛んだ。その時はじけ飛んだ瓦礫が、目元から頭頂にかけてかすって、出来た傷なんだ。今でこそこんなもんだが、当時は血みどろで髪まで引きちぎれて大変だったんだぞ。俺を庇った攻さんはもっと酷かった。血だらけになって、それでも俺を抱えて逃げてくれた。……おかげで俺は今も生きていられる」

「えっ……」

「でも攻さんは、その時に俺を庇って受けた怪我が元で死んだ。その手紙と遺書を日本に持って帰って来たのは、俺の父親だ。命を助けてもらった俺も同席した。それ以来、遠田社長には懇意にしてもらっている。父はその後も仕事で現地に戻ったけれど、母はもう日本から出たくないと言って俺と一緒にここに残った。料亭“ミヤマ”は母の実家なんだ。母は料理の勉強をしながら、親父との離婚も成立させて、爺さんが死んだときにこの“ミヤマ”を継いだのさ」
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