強引専務の身代わりフィアンセ
「だって私、一応、ここには仕事で来たわけですし」

「だから待ってただろ。美和が自分の仕事に一生懸命で、責任を持ってやりきろうとしているのが俺にもわかったから。こちらは美和との契約が終わるのをずっと待ってたんだ」

 きっぱりと言い切ると、一樹さんは私との距離を詰めて、唇同士が触れ合いそうになる寸前のところで口を開いた。

「もう待たないし、待てない。仕事は終わりだ。それでここで帰るのか、もう一晩俺と一緒にいるのか、美和が決めればいい。今ならまだ選ばせてやる」

 仕事のときでさえも見たことがない、怖いくらい真剣な眼差しに、呼吸さえも忘れる。ややあって、私は乾いた声で彼に返した。

「……帰って父に、社長に業務報告をしないと仕事は終了したって言えません」

 その回答に一樹さんの表情がわずかに曇った。けれど、すぐに瞳に驚きの色を宿す。

「電話、してもいいですか? 伝えないと。今日の報告と……遅くなりそうだから、もう一泊していくって」

 言い終わるのと同時に私は彼に自分から口づけた。彼の言葉を封じ込めて、続ける。

「こんなの全部イレギュラーです。エキストラとしてありえません。でも、元々この依頼だって、一樹さんじゃなきゃ、きっと引き受けていませんでした」

 目線を落ち着かせないまましどろもどろに告げると、彼は気の抜けたような笑みを浮かべてくれる。そして強く抱きしめられたので、私は笑顔になって、彼にそのまま身を委ねた。
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