イジワル男子の甘い声
「始めるよ」
「う、うん」
まさか、クッキー持っていってこんなことになるとは。
柏場もどういう風の吹きましだろうか。
まるで、私の勉強を見てくれるって言い出したあの時みたいだ。
柏場が、機材のスイッチを押した瞬間、初めて聴くメロディが流れ始めた。
どうしよう。
始まる。
そう思った時には、横顔の柏場の口が動いていて。
息を呑むって、こういうことなんだって思った。
全身鳥肌が立って。
まるで、この世の全ての音が、彼の味方かのように。
生まれて初めて、心の底から大好きだと思った声が──────。
目の前で音を紡ぎだしている。
アップテンポな曲で、今までの柏場のカバー曲と違って新しいことが多いのはすぐにわかって。
柏場にとって、この曲は挑戦でもあるんだって、今までと違うことで、彼が少し不安になって、誰かに聴かせたいと思ったのもわかった。
だけどさ…柏場。
何にも不安になることがないくらい、ちゃんとsakuの歌だよ。