伯爵令嬢シュティーナの華麗なる輿入れ
 見上げると、青空からまるで花が降ってきているようだった。視線をずらすと、長身の青年が立っていた。

「あっ!!」

 シュティーナは思わずそんな声を出してしまう。はしたなかったかなと思い手で口を隠した。立っていたのは、サムだったから。

「まぁ……!」

「またお会いすることが出来ましたね」

 長身のサムがにっこり笑うと、シュティーナの心は踊った。長い髪が風に揺れている。

(大好きなお菓子を目にしたときと同じ胸の高鳴りだわ)

 シュティーナのお腹も鳴ってしまう。

「店にいたら見えましたので、仕事を放り投げて思わず出てきてしまいました」

 サムは白い花を1輪、シュティーナに差し出した。それを受け取って、シュティーナはサムを見上げる。

「あ、ありがとうございます。そうでしたか」

「こんなに美しく可愛らしいかた、どこにいても目立ちますよ」

「か、かわ、美しいだなんて!」

 顔を赤らめたシュティーナにサムは手を差し出した。シュティーナはおずおずとその手を取る。そこへイエーオリが止めに入る。

「無礼な。触れるな!」

「いや、わたしが自分から触ったのだから怒らないで。イエーオリ、安心して。この方はね」

 イエーオリはシュティーナが止めるのも聞かずにグイとサムへ詰め寄った。イエーオリも背が高いのでふたりが並ぶとまるで壁のようだった。シュティーナは喧嘩になるのではとおろおろしてしまう。サムは、イエーオリの顔をじっと見つめて言った。

「お父様……ですか?」

「ちがうわ!!」

 イエーオリがますます声を荒げた。たしかに親子ほど歳が離れているし、実際、イエーオリはシュティーナの父よりふたつ年下なだけだった。シュティーナは思わず吹き出してしまう。

「イエーオリはお父様じゃありません。大事な家令です」

 シュティーナの説明を聞くと、サムはイエーオリに向き直った。

「そうですか。大変失礼いたしました。わたしは、サムと申します」

「こ、この方にね、先日料理を作っていただいたの」

 イエーオリは目を丸くしてシュティーナに耳打ちする。

「この方ですか?」

 頬を赤らめたシュティーナに小さくため息をつくイエーオリだった。そのあと、ちょっと考えるような様子を見せたイエーオリだったが、シュティーナはサムしか視界に入っていなかった。

「青葉の祭り初日、晴天に恵まれてよかったです」

「そうですね。舞台で出し物を見ていたところです。みんなとても楽しそう」

 シュティーナはサムの視線の先にいることにそわそわしてしまう。初めて会ったときからそうだった。日差しを熱く感じる。そう気温が高いわけではなかったのだけれど。シュティーナはドレスの裾をぎゅっと握って呼吸を整えた。

「お店に、伺おうと思っていたところなのです」

「そうでしたか。ご案内しますよ。今日は、いい鶏のささみが入りました」

「ささみですって! イエーオリ、行きましょう」

「お、お嬢様」

 イエーオリが困惑した様子でシュティーナを見やる。

「大丈夫。リンと一緒に行ったお店ですから」

「どうぞこちらへ、お嬢様」

 シュティーナは、そう言って出されたサムの手を取り、歩き出した。釈然としない様子のイエーオリが少し心配だったけれど。

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