コガレル ~恋する遺伝子~
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就職が何とか決まって以降、通勤に便利な沿線に住まいを探してた私に、この物件を紹介したのは駅向こう側の不動産屋だった。
ホストかと見間違うような、黒いスーツに髪を茶色く染めたお兄さんは
「お客様なら、気に入っていただけるでしょう」そう言って、カウンターに間取り図を置いた。
なんでも怪しい人物には貸さない、というのが大家さんからの条件だそうだ。
ただ、まだ私の素性は一切明かしてない。
『怪しさ』の基準が謎だった。
それでもせっかく見せてもらえるなら、と視線を落として見た。
間取りもさることながら、物件詳細欄をじっくりとチェックする。
築年数はちょっと気になる…
でも駅から徒歩圏内でこの家賃はお手頃かも。
それにバスルームとトイレが離れてるのが、ポイント高め。
脈有りと感じたのか、他は勧められなかった。
この物件を早く処理しようと、巧みに押し付けられたのかも知れない。
そんな考えにたどり着くまでには日数を要してしまった。
「ご案内しましょう」
ホストチックな不動産の従業員は、昼の営業スマイルを浮かべて言った。