コガレル ~恋する遺伝子~
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長くて冷たい夜が明けた。
太陽を置き土産に、台風は去って行った。
今の私は、ダイニングキッチンのイスの上で、膝を抱えて座ってる。
部屋の中で傘をさしたのは、人生で初めてだった。
そういえば『やまない雨はない、明けない夜はない』って誰かが歌ってたな…
この光景も昔漫画で見たことがある。
床に並んだ雨水受けの鍋と食器たち。
見上げれば天井はシミだらけだった。
昼少し前、大家さんが大工を呼んで調べてもらって分かった。
昨晩の台風により建物の屋根が大きく剥がされてたって。
飛んだ屋根が人に直撃しなかったのは幸いでした、と区の職員さんは言った。
大家さん宅の玄関前、なぜ区の職員さんがいるのか。
それは漏電火災や倒壊の危険性も考えて、この家は取り壊すようにと指導に来たからだ。
聞いたら大家さん夫妻、実は千葉に新居を建ててあるそう。
一足先にそこで長男さんが暮らしてるって。
「長男は離婚したんでね、弥生ちゃん、うちにお嫁に来ないかい?」
「弥生ちゃん、美人さんだから喜ぶわよ、きっと」
夫妻からの衝撃のスカウト。
この夫婦の息子さんなら、若くても50代…?
丁寧に辞退したことをお許し下さい。