コガレル ~恋する遺伝子~



「良く眠っていたよ」

 突然声をかけられて、肩がビクン、と跳ねた。
 すぐに声のした方を振り返った。
 向こうのテーブルで、こちら向きに着席してる男性がいた。

 足に絡みつく毛布を脇に追いやって、急いで立ち上がる。
 ズキンと膝が痛んだけど、声に出さずに耐えた。
 少し離れたここから男性を観察した。

 年の頃は40代…?
 スーツを着て、新聞を読んでいたよう。
 漂ってくる香りから察するに、傍らにあるカップにはコーヒーが入ってるのかも知れない。
 出勤前なんだろう、今が朝なのだと男性を見て知らされた。

「あの、…!」

 その時、ハッと気づいた。
 この人を知ってる。
 専務だ、一昨日までの私の勤務先の真田専務。
 この洋館が専務のお宅?
 それにここまで私を運ばせてしまった?

「も、申し訳ありません。大変なご迷惑をおかけして。しかも一晩休ませて頂いてしまったようで…」

「君は確か、うちの社員だよね?」

 頭を下げてた私は、その言葉に顔を上げた。
 まさか自分を知ってるなんて思わなかった。


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