コガレル ~恋する遺伝子~




 勤めていたのは有名洋菓子メーカー、本社の従業員は数百名。
 役員の部屋は私の所属していた課とはフロアが違う。
 受け付け嬢でもなければ、秘書課所属でもなかった私。
 営業課のそれもただの契約社員だった。

 専務とはエレベーターや廊下であいさつを交わしたことはあっても、それ以上の会話の記憶はない。

「専務…」

 答えに詰まった。
 もう社員じゃない。
 でもかつての職場の上役に嘘をついたって仕方がない。
 大家さん風に言えば、ナンセンスだ。
 正直に話すことにしよう。
 一昨日、業績不振により契約解除されたことを。

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