コガレル ~恋する遺伝子~
私の言葉を聞いた専務は、眉間にシワを寄せた。
どういう感情から見せた表情なのかは分からない。
テーブルに肘をついて、顎の下で両の指を組ませて質問が続いた。
「仕事の当てはあるの?」
首を横に振るしかなかった。
「訳あって、次の職場も探せそうにありません」
「差し支えなければ、その理由を聞いてもいいかな」
理由は簡単。
住所不定者を雇ってくれる企業はないと思う。
これまた正直に、台風で屋根が飛んだこと、漏電の恐れがあって電気が点かないこと、老朽化によりその住まいを追われることを話した。
ドラマか映画のような不幸話に、流石の専務も耐えきれない、と笑い出した。
「ハハッ、すまない、笑い事じゃないな。フッ…」
手の平で口を覆って無理矢理笑いを殺してる。
「本当です、笑い事じゃないです」
私は頬をふくらませて見せた。
「確かに、住まいはともかく、んっん、仕事の責任は私にもあるね」
途中で再び笑いそうになるのを、咳払いで誤魔化す専務。
楽しんで頂けるならともう半ば、諦めの境地に達した。
だけど専務はすぐに真剣な表情に戻って、驚きの提案を始めた。