コガレル ~恋する遺伝子~
「ここに住みなさい」
すぐに理解ができなかった。
「いえ…専務にそこまでして頂く理由もな…」
「君なら」
私の言葉は途中で遮られた。
「そう遠慮すると思ったよ」
専務は左腕を伸ばすと時計をチラッと見て、立ち上がった。
「だから家政婦として働いたらいい。わずかかも知れないが賃金も支払う。空いた時間に職を探しなさい」
「あの、」
移動したのは、アンティークなキャビネットの前。
専務はその上にある固定電話の受話器を取るとボタンを押した。
話し出した内容からするとどうやら、内線で誰かを呼び出したみたい。
受話器を置くと、振り返って言った。
「一つだけ条件がある」
テーブルに戻ると、今まで座ってたイスの一つ隣のイス。
そこにあった鞄に新聞を詰め込んだ。
それからカップを取り上げて、ドアのない続きの部屋へ消えた。
あっという間に戻ってくると手からカップは消えて、鞄だけが下がってた。
「あの、」
急に慌ただしくなった雰囲気に、なかなか言葉が繋げなかった。
完全に専務のペースに飲まれてた。
「今から君は、私の婚約者だ」