コガレル ~恋する遺伝子~
「以上がうちの家族。で、」
『で』、と言ってから空気を全く読まない専務は、私の肩を引き寄せた。
展開に追いつけなくて、その手を振り払うこともできずに寄り添ってしまった。
専務と肩を並べて立つと、
「こちら、葉山弥生さん。父さんの婚約者で、今日からここで暮らすから」
さっきの一方的な提案と条件が家族の前ですら惜しげもなく披露された。
驚いて専務へ顔を向けると、思いの他至近距離だった。
まだ肩も抱かれたままで、あからさまにのけぞることもできない。
専務はウンと一人満足気に頷いてから、
「時間だ」そんな棒読みのセリフとオーディエンスを残して玄関へと消えた。