コガレル ~恋する遺伝子~
やがて車は空港に乗り入れた。
圭さんはレンタカーを返して、フライトの便のチェックインを済ませた。
搭乗が始まる時間をラウンジで待つことにした。
「圭さん、」
「ん?」
並んで腰掛けてる圭さん。
ただ前を見てた。
ふと、好きなのにここで別れる私たちに過去を重ねた。
「私のお母さんはお金が欲しくて、専務と別れたんでしょうか?」
「違う、お前の母親は手切れ金を最後まで使わなかった、結局返されたよ。
親父のために身を引いたんだ」
母達にとって、別れが正解だったのか私には分らない。
専務はその後、愛すべき家族のいる家庭を築いた。
その中にはもちろん圭さんもいて…
私のお母さんの人生は幸せだったのかな。
私は今まで幸せに暮らしてきた。
生活は決して楽じゃなかったけど、周りの人達の温かい支えがあった。
「考えてたんです。
もし専務とお母さん、二人が一緒になってたら、」
「俺達は生まれてない?」
「違います。私達は、一つになるはずでした。
だから私は、こんなにも圭さんに焦がれるんだなって」
圭さんは一瞬目を見張ったけど、すぐに優しい眼差しを私に落とした。
あのカメラに向けた刺すような視線が嘘のよう。
この三日間、まるで嵐の中に放り込まれてるみたいだった。
圭さんという停滞した強風が私を翻弄し続けたけど、それは忘れられない濃密な時間でもあった。