コガレル ~恋する遺伝子~
熊本の空港に到着するとレンタカーを三日間借りた。
編集部をナビに入力して、まっすぐ向かう。
そこは街中の雑居ビルの二階にあった。
ドアにはすりガラスもなくて、中の様子はうかがえない。
柄になく少しの緊張を感じながら、プレートの貼られた編集部のドアをノックした。
くぐもった返事が聞こえた。
俺がドアを開けたのと、カウンターの向こうで誰かが立ち上がるのが同時だった。
俺の顔を見た愛嬌あるその子は、一定時間フリーズした。
呼吸を忘れてたかのように口をパクパクさせた後
「なんで?」その一言だけで、イスにまた腰掛けた。
後に本人曰く、腰が抜けたそうだ。
弥生の初対面時のノーリアクションを思い出して、あまりの違いに笑みがこぼれた。
「葉山弥生さんはこちらにいますか?」
「は、葉山は、い、今取材に出かけており…お、お父さ! 違っ、編集長!!」
応対に限界を感じたのか、奥にいる編集長に俺を丸投げした。