コガレル ~恋する遺伝子~


「随分にぎやかなんですね」

 弥生とはなかなか目が合わない。
 編集長が俺の案内を弥生に振ると、なぜか夢とやらに俺を押しつけようとした。
 しかもだ、
「編集長、今日は仕事が終わった後、約束があるんです、ね、冬馬君?」

 って、ハァ?
 何言っちゃってんの?
 それに振り返るな! 奴と顔が近すぎる。

「ん、あぁ、夕飯奢る約束ね」

 限界だ…
 胸が痛すぎた。

「編集長、」

 俺はタブーを犯した。
 事務所を通さず、ノーギャラとはいえ仕事を受け負った。
 女史にバレたら、殺され…いや、怒られる、間違いなく。

 それでもいい…
 話をしないことには進めない。
 二人きりで話を。

 この後に及んで弥生は夢も誘った。
 知り合い設定も、もうどうでも良くなった。
 グズグズとする弥生の手首を捕まえると、編集部を後にした。

 外に出ると手を放すように言われたけど、放せなかった。
 手を離せば逃げられる気がした。
 もう、弥生を離したくなかった…

< 285 / 343 >

この作品をシェア

pagetop