コガレル ~恋する遺伝子~

「嘘だろ、」

 弥生がタクシーを止めた。
 俺も車を止めると走った。
 間一髪、乗り込もうとする弥生のウエストに腕を回した。
 タクシーを行かせると、弥生をこの腕に抱き締める。

 無理だ。
 さようならなんて聞いてやれない。
 俺の話を聞いて、お願いだから。

 抵抗する弥生を無理やり抱き締めた。
 髪を撫でて、落ち着くのを待つことしかできない。
 ごめん、俺が悪い。
 分かってる、そう全部俺が悪い。

「車に…乗って?」

 興奮の冷めた弥生の手に恐る恐る触れた。
 拒否されて、振り払われる気がした。

 握った手は解かれることはなかった。
 それでも助手席に座ってくれるのを見届けるまでは、安心できなかった。
 拒絶される絶望感をこの時まで知ることができなかった。
 自分を悔やんでも、悔やみきれなかった。

< 287 / 343 >

この作品をシェア

pagetop