コガレル ~恋する遺伝子~

 車を走らせながら途中、何度も弥生をうかがい見たけど、ずっと前を向いてるだけだ。

 港に着くと駐車場に車を停めた。
 降りることはしなかった。
 誰にも聞かれずに話せるだろう。

 西欧風の建物が海の手前に点在してた。
 弥生の育った家は借家でもうないけど、ここから歩いて行ける場所だったそうだ。
 この海沿いの穏やかな町を、小さい弥生が駆け回ってたのかと想像を巡らせた。


「俺たちは腹違いの兄妹、てなことを白岩さんに言われたよ」

 弥生はずっと避けてた視線を俺に向けた。
 そりゃ驚くだろう。
 この衝撃度合いは、俺たちにしか分からないことだ。

 でもすぐにそれが事実ではなかったことを伝えた。
 安堵の表情を見せたと思ったのは、俺の願望のせいかもしれない。

 弥生に言わせれば、俺が一人で請け負った衝撃を二人で共有するべきだった、そうだ。
 今思えばその通りだ。
 親父や弥生に打ち明けてれば、白岩にバラすと言われた脅迫も、なんの驚異にもならなかっただろう。
 渦中にいた俺は、弥生をただ守りたいという一心で、実際は深く傷つけただけだった。

 弥生の握りしめる手が膝の上でスカートに皺を作った。
 その手に俺の手を重ねる。
 なのに、やんわりと払われた。
 俺がしたように、弥生も俺を拒絶した。
 弥生はここで新しい生活を始めたって。

 俺の存在はもう抹消された?
 ねえ、俺に何が始まった?
 一日をやり過ごして、ただ生きてるだけだ。

「…好きで好きで、どうしようもないよ…」

 腕を引いて抱きしめた。

「ずっと呼吸が苦しい」

 苦しくて死にそう。
 いつまでこの仕打ちを続けるつもりだよ。
 弥生から身体を離すと、頬に手を当てた。

「…こっちに来てからずっと冷たいし…俺を殺す気?」

 俺を捨てるなら、いっそ殺して。
 傷すぎて、情け無さすぎて、笑える。

 涙をポロポロと零した弥生。
 笑った顔が好きなのに、俺は泣かせてばかりで…


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