コガレル ~恋する遺伝子~


 海を後にして、天草の食堂で夕食を摂った。
 宿泊するホテルに到着すると、弥生に声を掛けて荷物を降ろした。
 助手席で戸惑って硬直してるのが分かり易すぎる。
 まあ、あながちその戸惑いは見当違いじゃない。

 さっき食堂から弥生に知られないように、このホテルに電話した。
 部屋の予約をシングルからスイートルームに変更してもらった。
 しかもコンシェルジュに風呂の小細工もお願いしたし。

 一緒に住んでみて分かったけど、弥生は風呂好きだ。
 そして長い。
 男家族で育ったから、女の入浴時間の長さを知らない。
 あれが普通なのか、弥生が特殊なのか…

 フロントでチェックインしてスイートルームのカードキーを受け取った。
 バーは最上階だ。
 ロビーで佇む弥生に声をかけて歩く。
 エレベーターのボタンを押して、振り返った。

 良かった、ついてきてる。
 運良く乗り合わせる客はいないようで、この一角に人影はない。
 普通の恋人同士のように、誰の目も気にせず歩いてやれないのが申し訳なかった。
 弥生の手を取ったら、握り返された。

 そんな些細なことでも幸せを感じてしまう自分は、この人にどれだけ溺れてるんだろう。

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