コガレル ~恋する遺伝子~

 階段を降りたところで、荷物を車に積み込んだのか、戻ってきたカメラマンに出くわした。

「なあ、ちょっといい?」

 すれ違った直後、振り返って声をかけたのは俺の方。
 カメラマンも振り返ると、立ち止まった。

「なんでしょうか?」

 そう言うと、腕を組んでビルの入り口に寄りかかった。

 なかなか友好的な態度してくれるじゃないの。

「彼女のこと、これからもよろしく頼みます」

 そんなにこのセリフが予想外だったか。
 一瞬驚きの表情を見せた。
 でもすぐに呆れた顔が横に振られた。
「やれやれ…」そんなセリフが今にも聞こえてきそうだ。

「真田さん、俺のこと嫌いでしょ?
なんでそんなこと頼むの?」


 誰かに託すなんて、ましてやこいつに託すなんて嫌に決まってる。
 でも俺が冷たく突き放した時、この土地で弥生の頼りになったのは夢やこの男だと思う。
 暖かく迎え入れてくれたこの職場を、弥生が離れたくない理由も分かった気がした。

「俺は嫌いだけど、弥生が信頼してる人間だから、君」

 それを聞いて、「フンっ」てやっぱり呆れたような笑いを漏らした。
 組んだ腕はそのままに足元を見下ろした。

「信頼以上の関係になるかも知れませんけど?」

 今度は俺が笑ってやると、奴は顔を上げて俺を見た。

「ならないよ。
弥生は俺に夢中だから」

 結局最後まで呆れ顔のまま、
「もう、好きにして下さい。」そう言い残してカメラマンは階段を登って行った。

 俺も編集部を背にすると、車に向かった。

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