コガレル ~恋する遺伝子~

 それからフライトの時間に余裕を持たせて空港に向かった。
 刻々と別れの時間が近付いてることを感じつつも、お互い言葉にはしない。

 信号待ちの車内、ここにきて大粒の雨が窓を打ち付けるようになった。
 何で別れる日は、大雨なのか。
 それでもあの日のような胸の痛みがないのが救いだ。

 助手席の弥生が指輪を触ってるのを、視界の隅に捕らえた。
 恐らく無意識なんだろう、指輪に触れるのを今日何度も目にした。

 大して意味もないと思うけど、ナンパ撃退時には左の薬指に嵌めることを強要した。

「心配いりませんよ、私そんなにモテませんから」

 ハ、…
 ため息をグッと飲み込んだ。
 この俺のやるせなさをどう表現したらいいだろう。
 何かあっても駆けつけられる距離じゃないんだよ。

「鍵、早くね」

 最低のボーダーライン、これだけは絶対に譲れない。
 不動産に電話すると言うから、その言葉を信じて、これ以上追求するのは止めた。

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