コガレル ~恋する遺伝子~


 その日の夜は食欲もわかなかった。
 考えてみれば、昼は昼でランチという気分にもなれなかった。
 今日一日、ろくに食べてない。

 シャワーを浴びて、早々にベッドに入ることにした。

 一人暮らしのこの賃貸物件は、手放しに快適とは言えない。
 それでも都内で、しかもこの家賃でバスルームとトイレが別なのが嬉しかった。

 ただ、いくら風呂好きを自負する私でも、今日ばかりはゆっくり湯に浸かる気にはなれなかった。


 台風は予報通りにやってきた。
 雨粒が窓に体当たりして、砕け散る音が聞こえる。
 行く手を拒むものは、奪い去ってしまえとばかりに唸りを上げて風は吹き抜けた。

 …仕事探さなくちゃ。

 今日はもうどうせ何も考えられない。
 ベッドに潜ると目を瞑って、一切の思考を停止した。

 ガタガタとどこかが振動する音は意識の遠くに沈んだ。
 やがていつしか眠りに落ちてた。


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