極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
「伊崎が言うには、三年前にも僕とプライベートで会うようなことを吹き込まれたようなんだけど、あれは間違いなく専務との会食だった。君は案内役にしか過ぎなかった。まさかこれは、勘違いだなんてありえないでしょう」
一度振り向いて以降、彼女は前に向き直ったまま背中しか見えないけれど、倉野さんの肩は小さく震えていた。
朝比奈さんの表情から、微笑みが消える。
感情のない表情は、怖いというより厳しいものに変わった。
「それだけじゃないね。吉住さんに、まだ内密だった人事異動の話を洩らした」
「あれは! 彼女なら、朝比奈さんから既に聞いてるかもしれない、と思ったから」
「そんなことで口を滑らす役員秘書なんて、あってはならないよ。当時の会社の経営状況を君なら専務から聞いて知ってたはずだよ、だから外部のみならず内部にも慎重になってたんだ」
当時の、経営状況?
言い回しからはあまり良い意味にとらえることはできず、それは伊崎も同じなのかちらりと見合せた顔は驚いていた。
もしかして、そんなに悪かったの?
朝比奈さんが関西に向かうことになった理由もそこにあるの?
その答えを教えてくれたのは、俯き肩を竦めて震える細い背中だった。
「……知ってたからこそ、です」
耳を澄ませないと聞き取れなかったほどの小さなものだったが、次の瞬間にはぱっと顔を上げはっきりとした声音を放つ。
「だからこそです。私ならあなたをちゃんと支えることができたのに! ずっと憧れていたあなたの役に立てると、嬉しかったのに」