極上スイートオフィス 御曹司の独占愛

決して大きな声ではないとはいえ、言い争うような空気に隣席からちらちらと視線が飛んでくる。


けれど彼女はまっすぐ背筋を伸ばし構わず彼に言い募った。


「あの頃、西日本の業績悪化が続いて関東エリアがどれほど好調でも、引きずられてこのままではいずれ傾くのは目に見えていました。それを立て直すのは、並大抵のことではなかった。だからこそ、私をパートナーにと専務も仰ったんです」

「必要ないと言ったのは僕だよ。彼女を傷付ける理由にはならない」

「彼女に遠慮して、でしょう? あんな、目の前の仕事にすらいっぱいいっぱいで、あなたの抱えるものにも気付かないで、あなたにふさわしい人とは思えません!」


自信に溢れ、説得力に満ちた言葉にぎゅっと拳を握りしめる。
彼女の言うとおりだった。


私は、自分のことで精一杯で、なにも知らなかった。


自分のいたらなさに、彼女の言葉はストレートに胸に突き刺さった。



「ずっと、見てました。だから、彼女が朝比奈さんの恋人だと気付いた時、悔しくて仕方なかった。せめて仕事でとお役に立ちたかったのに、それも受け入れてもらえなくて、一度は諦めました。でも……」


細い肩と、テーブルの上で握られた小さな拳が震えていた。


「業績を回復させて軌道にのせるまで、何年かかるかわからないと言われていたのに、たった三年であなたは帰ってきた。誰にでもできる仕事じゃないわ。それがどれだけ大変なことだったかも知らないで……いけませんか。私なら労ることも出来たと悔しく思うのはいけないことですか」


戻ってきた彼を見たとき、確かに少し痩せたと思った。
鬼だと言われたよ、と笑った彼を思い出す。


どれだけ無理をしてきたのだろう。
穏やかで優しい人が、鬼と囁かれるほど厳しい面を被らなければならない仕事を三年、どんな思いで過ごしてきたんだろう。


胸が痛むのと同時に、自分の不甲斐なさに目頭が熱を持つ。


だが、その時当の彼から聞こえたため息は、倉野さんの熱のこもった告白にまったくそぐわない冷ややかなものだった。


「……さっきから、君は自分や僕を特別な人間のように言うけれどね」


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