【短編】夕暮れモーメント
「コンサート、終わっちゃいました。私、呼び戻しに来たのに」
でも、私は呼び戻しに行く必要なんて全くなかったのだ。
別に、それは高島さんの言うことを聞いておくべきだったとか、そういうことじゃなくって。
勝三さんは、サックスを見ないんじゃなくて、見られなかったのだ。
サックスを嫌っているわけじゃない。
むしろ、サックスへの想いは誰にも負けないくらいだ。
サックスを今でも楽しげに演奏している人たちが、眩しくて、見ていられなかったんだ。
「こんなつまらんじじいのために、きみもコンサートが見られなくなってしまって申し訳なかったな」
勝三さんは車椅子を手持ちぶさたに前後させながら、すまなさそうにぼそりとこぼした。
「いいんです。私も見たくなかったので。勝三さんと同じです。あと、」
「何だ?」
「勝三さん、また、サックスやりませんか?…私と一緒に」
ずっと車椅子を揺らしていた、勝三さんの手が止まった。