【短編】夕暮れモーメント
「やっぱりそうか。きみもサックス奏者だったか。わしの想像通りだ」
「わかるんですか?」
「老人の年の功ってやつだ」
勝三さんは口を開けて豪快に笑った。
なーんだ、って思った。
もっと何か特別な理由があるんじゃないかって少し期待したのに。
「でもな」
勝三さんは続けた。
「わしはやらんぞ」
「なんでですか?」
「もう吹かなくなってから長いからだ。あの時みたいにできないのなら、もうやりたくない」
「私だって勝三さんと同じです。もうずっと吹いてないです。あの時から」
あの時、とはっきり声に出して言ってから、しまった、と思った。
ずっと頭の片隅に封じ込めていた言葉や思い出が、走馬灯のようによみがえってくる。
あの日、あの時言われた言葉たちが、思い出されては私を襲い始める。