【短編】夕暮れモーメント
『ひなた、今度の市民祭出たくないって本当?』
「べ、別にそんなこと言ってない」
『聞いたよ。去年みんなが聴いてくれなかったから嫌だって言ったんでしょう』
「それは思ったけど…。」
『賞でも貰わないと演奏したいとか思わないわけ?最っっ低!』
「べ、別にそういう意味じゃないよ」
そんなやり取りを部員の一人としたのち、気づけば先輩に「上告」されていた。
『ひなたちゃん、市民祭出たくないって言ったんだって?』
あの時の私は本当にバカだった。
言ってしまったことくらい、それが間違ってとらえられたことくらい、簡単に認めてしまえばよかったのに。
なのに、私は言ってしまった言葉を、無理に正当化しようとしてしまったのだ。
「コンクールの練習のほうが大事だと思ったからです」
部室の空気が凍りつくような心地がした。
そんな薄情なこと、微塵も思ってなかったのに。
今思えばなんであんなこと言ったんだろう、って思う。
ただ、私は市民祭で演奏を聴いてもらえなかったのが悲しかっただけで。
なのに、その些細な失言をむりやり「正当な理由のあるもの」にしようとした。