【短編】夕暮れモーメント
言ってから、しまった、と思った。
だけど、もう取り返しがつかない。
容赦なく注がれる、みんなの視線が痛かった。
「ご、ごめんなさい。私、部活、辞めます」
気付いたらそう言って部室を飛び出していた。
それからあの部屋にはもうずっと足を踏み入れていない。
後になってサックスを置き去りにしていたことに気づいて、コンクールとかで部員たちがいない間を見計らって、こっそり持ち帰ったくらいのことはあったけど。
悔しかった。
情けなかった。
だけど、完全に自分だけのせいだった。
だけど、もう一度吹いてみたい。
あの音を響かせてみたい。
私は、サックスが大好きだった。
気付いたらなるべく見ないようにしてたけど。
ずっと見ないようにしていたのは、サックスへの強い未練の裏返しだ。
だけど、今さら、未練とか、悔しさとか、意地なんてものはどうでもよかった。
もう一度、演奏したい。
できれば、似たような気持ちでいる人と。