夢愛

帰り道。
雛乃はバレーの大会間近だから休みはずっと無しで、わたしは独りで下校する事になった。
やっぱり雛乃がちょっとでもいないと寂しくなるな〜とか思ったりする。
つまらなくなったり独りでいる時は必ず音楽を聞いたりして時間を潰す。
そうと決まれば今すぐにでも音楽を聞こう。と、思いカバンからヘッドホンとスマホを取り出すと
「あれ、夢月じゃん。夢月も帰宅なのー?」
聞きたくない声だった。この癖のある声は今日昼休みにぶつかったあの人しかいない。
「偶然だねー、俺も帰宅なんだー」
すんなり隣になって歩いてくるこの人
「隣、歩かないでもらえますか?」
「えー良くない、それくらい」
神崎先輩。隣にいるだけでオーラが半端ない。身長差があり過ぎるからだろうか。それともただそういう人なのだろうか。
「思ってたんだけどさ、夢月のそのネックレス、メッチャ綺麗だよね」
「まぁ、そうですね。」
会って間もないというか、会うのまだ2回目でこの観察力。人付き合いが上手い証拠だろうか。
「それって、誰かにもらったとかそういう感じの?」
「まさか。」
多分違うと思う。けど、決めつける事は出ない。

「じゃあ……預かったもの……とか?」

意味深な事を言って来た神崎先輩のその言葉はひどく頭に響いた。
どうしてかなんて自分でもわからないくらいに一瞬の事だった。
ただ何かを思い出そうと必死だったわたしの頭に浮かんだ1人の男の子のシルエット。それが今1番思い出さなくちゃいけないことだったのに、全然思い出せない。誰だったのか……考えてみたけどやっぱりわからない。

「……さぁ。」

出てきた答えは曖昧なものだった。
自分でも思い出そうと思うと頭痛が襲ってきて考えることを辞めてしまっていたから。多分、恐れているんだと思う。
いやいや、何に?
わたしが勝手に考え事をしていると隣から「ま、わかんなくて当然じゃね?」と、言われた。
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