千の春









「怖いのかな。わからないけど、神様とか、幽霊とか、鬼とか、そういうのが見えない人には怖い話かも」


握られた手はひんやりと冷たく、死んだ人の手みたいだった。
岬は急に怖くなった。

もしかしてこの日向という男は、この世の人間ではないのではないか。
そう思った瞬間、背筋がゾッとした。


「でも、とにかく、神様ってそういう存在なんだ。気に入ったら自分のものにする。それが何であれ許される。だって神様だから。この世界の全ては彼らの一存でどうとでも変化する」


俺ら人間にはどうしようもできない存在だよ、と日向は言う。


「・・・離して」


なんとか絞り出した岬の言葉を、日向はあっさり無視する。


「神様は、連れて行くんだ」

「何なの」

「気に入った才能を、自分の手元に置いておきたいから、20歳になる前、汚れる前に連れて行っちゃうんだ」


本格的に怖くなってきた。
なんなんだこの人は。

おかしなことをブツブツとさっきから。
それをなぜ私に言うの。

言いたいことはたくさんあったが、岬の口は中途半端に開いたまま、何の音も出なかった。


「首元に青いラインが入ったシャツを着ている」


じっと、岬の目を見つめてそう呟いた。
日向の視線を、岬は真正面から受け止めた。

反らせなかった。
なぜかはわからないけど、体が動かなくて。

岬の目を見つめたまま、日向はよどみなく口を動かす。







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