先輩から逃げる方法を探しています。
立ち上がった先輩に続き、私も立ち上がる…ことなく、座ったまま。
代わりに手は先輩の洋服の裾を握っていた。
「え。翼ちゃん?」
「…あっ……」
「何?どうかしたの?」
「い、いえ。これは……えっと…その…」
無意識に掴んでしまった裾を離すことなく、理由を考える。
「先輩に聞きたいことがありまして」
「俺に聞きたいこと?」
「はい。どうして先輩は喧嘩をするんですか?」
理由を考えたが、無意識だった為にわからず…結局理由というよりも言い訳になってしまった。
でも、このことについては聞いておくべきだったからちょうどいい。
「どうしてって…翼ちゃんには関係ないよねぇ?」
「それは……そう…ですね」
そう言われてしまうと何も言い返せない。
私は先輩の家族でも恋人でも友達でもない。
だから私が口を挟む権利なんてものはない。
先輩にとって私は、私にとって先輩は一体なんなのだろう。
そう考えていると数週間前にも同じような会話をしたことを思い出した。
先輩が私に「どうして感情を隠すのか」と聞いてきた時のことだ。
私は今の先輩と同じように「関係ない」と言った。
そして先輩は
「関係あるよ。だって…俺の好きな子のことだから知りたいじゃん?」
そう言った。
この言葉が本当なら…いや、本当じゃないとしても……
「じゃ、この話はおしま〜い。戻ろう」
「待ってください」
再び先輩の洋服の裾を力強く掴み止める。
「やっぱり…関係あります」
「なんで?…あ。もしかして耀ちんになんか言われた?耀ちんってば翼ちゃんに頼むなん」
「違います。…耀先輩でなく私が……私が気になります」
「ん?どういうこと?」
「先輩が怪我をするのが…し、心配で…気になります……これが関係ある理由では駄目…ですか?」
先輩はすぐに返事をくれることも、私の手を振り払うこともない。