先輩から逃げる方法を探しています。
クレーンゲームというものはよく出来たものだ。
操作は簡単なのに、上手くいかない。
気づけばあっという間に5回目。ラスト1回だ。
ほとんど落ちかかっているからあと少し動かせば……
「………獲れませんでしたね」
「まだあと1回あるよ?」
「え?もう5回しましたよ」
「500円入れたら6回出来るやつだから~ほら」
残り回数が表示されているところには確かに『1』と数字が表示されていた。
だけど、5回って決めたし…これをやったら諦めがつかなくなりそう。
「先輩がやってくれませんか?」
「俺?翼ちゃんはいいの?」
「はい。5回やりましたから」
「つくづく真面目だなぁ。そういうところ……」
急に喋るのをやめたことを不思議に思い、隣に並ぶ先輩の顔を見上げる。
「どうかしましたか?」
「…ううん。なんでもないよ。じゃ俺がやるね」
「あ、はい。お願いします」
先輩は私と場所を変わると少しの間もなく、ボタンを押す。
棒と棒の間に引っ掛かっているぬいぐるみは顔をアームで押し込まれ、そのまま下へと落下した。
「先輩、凄いですね」
「ほとんど翼ちゃんが獲れるところまでやってたからね。はい」
「いいんですか?私が貰って」
「もちろん」
「では…ありがとうございます」
「あ。翼ちゃんにお願いがあるんだけど」
「はい?なんでしょう?」
先輩は財布から千円を取り出し、此方へと差し出す。
急なことに訳が分からずに首を傾げると、手に握らされた。
「えっどういうことですか?」
「喉乾いちゃったから飲み物買ってきてくれる?なんでもいいから」
「あ、は、はい。それはいいですが、お金なら私が…」
「はいはい。お金の話は翼ちゃんが買ってきてからね」
くるりと出口の方向へと私の体を向けると、ぽんぽんと肩を軽く叩いて急かす。
そんなに急に喉が渇いたのかな…。
ふと自販機が視界にはいり、私は顔だけを先輩へと向けた。
「わかりました。そこの自販機の物でいいですか?」
「え。あ、駄目。えっと…ここに来る時にコンビニがあったでしょ?そこで買ってきて」
なんでもいいと言って急かすようにしているのに、自販機ではなくコンビニまで行かせようとする。
まぁ、今日は先輩にたくさんお世話になってしまったから文句はないからいいけど。