先輩から逃げる方法を探しています。
駆け足でコンビニへと行き、飲み物を買ってはまた駆け足でゲーセンへと戻って来た。
先程までいたクレーンゲームの前まで来たのだが、先輩の姿はない。
この場所で間違ってはいないなはず。
もしかして違う場所に移動してるのかな…。
「……………いない」
辺りを見渡しながらゲーセンの中を歩き回って2周目。
やはり先輩の姿はない。
どこかですれ違ってしまっているのか。はたまた先輩はこのゲーセンにはいないのか。
どちらかだとすれば、きっと前者のほうだ。
先輩が黙って帰るわけがない。
先輩はそういうことをする人じゃない。
だって……だって………そう思う理由は…?
「あのー何か探し物ですか?」
声を掛けられ、頭をあげると胸元に「小鳥遊(タカナシ)」と名前の書かれた人がいた。
ここの店員さんだろう。
あれだけキョロキョロしながら2周もぐるぐると回っていたら不審だよね。
事情と先輩の特徴を伝えると、店員さんは何か思いついたのか手をポンっと打つ。
「迷子の呼び出しをしましょうか?」
「えっ……そ、それは…」
「はははっ。冗談ですよ。ちょっと待っててくださいね」
小鳥遊さんはそう言うと走ってどこかへと行く。
珍しい苗字の人だな…小鳥に遊ぶって書いてタカナシさんか。
振り仮名がふられていなかったら読めなかった。
携帯を取り出し、電話をしてみるもずっと呼び出し音が鳴るだけで出る様子もない。
「俺は翼ちゃんから電話が掛かったらいつでも必ず出るよ」
なんて言っていたのに。…嘘つき。
待ちながら先輩がいないか通り過ぎて行く人達を数十分見ていると、先輩を見つけるより先に小鳥遊さんは戻ってきた。
「すみません。大変お待たせしました」
どうやら防犯カメラで確認してくれたらしい。
私と別れて数十秒後には近づいて来た3人組と何やら話をした後、一緒にゲーセンを出て行ったようだ。
無理矢理に連れて行かれた様子はなかったってことは、その3人組っていうのは先輩の知り合いだったのかな。
「調べて頂きありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。これからどうされますか?探すのであれば僕も出来る範囲で協力しますが」
「大丈夫です。ちょっと探してみて見当たらなかったら帰ろうと思うので」
「そうですか。では、お気を付けてお帰りになられてくださいね。隣の地区よりはましですけど、この辺も少し不良が多いですから」
出口まで見送ってくれた小鳥遊さんに頭を下げ、ゲーセンをあとにした。