契約書は婚姻届
ゆっくりと髪を撫でる手に目を開けると、尚一郎が帰ってきていた。

「……尚一郎さん」

「ごめんね、朋香。
すぐに帰ってこれなくて」

尚一郎の手が、そっと眉尻の傷にふれると、涙がまたこみ上がってくる。
もう瞼が腫れるほど、散々泣いたというのに。

「これくらいのことでって、崇之に叱られて……朋香?」

「尚一郎さん、尚一郎さん……」

尚一郎に抱き付くと、涙がとうとうぽろりと落ちた。
わんわん泣いている朋香に、尚一郎は困惑している。

「私、どうしたらよかったのかな。
雪也がこのままじゃ死んじゃうってわかってて、尚一郎さんと別れるって云えなかった。
私、雪也を殺したも同じだよ。
私、私……」

「朋香……」

ぎゅっと尚一郎に抱きしめられると、少しだけ安心できた。
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